平成22年度 会長あいさつ

2006年にGEOASIA研究会を設立してから5回目,昨年一般社団法人として登記以来2回目の会長挨拶になります.会員の皆様には,日頃よりの研究会へのご支援にあらためて衷心より感謝申し上げます.

2010年は研究会にとりましても春から慶事が続きました.ひとつは総合的な地盤解析技術GEOASIAの主要部を紹介した論文,野田・浅岡・中野著:Soil-Water Coupled Finite Deformation Analysis Based on a Rate-type Equation of Motion Incorporating SYS Cam-Clay Model (地盤工学会論文集 Soils_and_Foundations, Vol.48, No.6, pp.771-790) に 2009年度地盤工学会論文賞が授与されました.特許取得との関係でしばらく封印されていた論文でしたが,公開された途端の受賞で,私たちの喜びには大きいものがありました.二つ目には,これまたGEOASIA研究会の中身そのものであります「弾塑性力学に基づく地盤の静的・動的応答解明の体系的研究」が2009年度文部科学大臣表彰(科学技術賞研究部門)を受賞しました.そしてこの部門43件の全受賞者を代表して,浅岡が表彰状を受け取るという栄誉さえ与えられました.あとにも少し触れますが,地盤解析技術GEOASIAはまだまだ発展途上のものにすぎません.それでもこのように認められて,少しずつでも広まって行くのは,大変有り難くまた大いに励まされます.

さて,私は今年3月末で名古屋大学を定年退職し,4月からは(財)地震予知総合研究振興会(東京都千代田区)に副首席主任研究員として勤務しています.この移動は,GEOASIA研究会顧問でもある澤田義博先生のお計らいによるものです.また地盤工学会の会長職は今年5月27日の総会で無事終えることができました.そして翌日は大学退職を記念しての最終講義の機会を与えられ,また心温まる退職記念パーティーも開いていただきました.市中ホテルの大きな会場で,GEOASIA研究会には資金的な後援も戴いたと聞いています.ありがとうございました.

会員を始め300人におよぶ多くの方々のご出席には感激いたしましたが,実は最終講義では何を話せばよいか,ずいぶんと悩んで,大げさにいえば一年近く,長い時間を過ごしていました.総合的な地盤解析技術GEOASIAの,真に目指しているものはどのようなものであるか?それをあらためて問い直して,新しい何かを見出し,それを分かりやすく伝えることなどできるのか?生来の魯鈍にはつらい一年になりました.

理論は未知な現象の存在を「予言」するものだとは,畏友日下部治会員の言われたことでした.岩手宮城内陸地震での一関西で見られた「地盤の隆起と鉛直地震動の片ぶれ」は何によるものなのか,これは澤田義博先生から頂戴した問いかけでした.このふたつを結び付けて,何とか形あるものにできたのは,高稲敏浩会員と山田正太郎会員の努力のおかげでした.図面一枚を掲げて彼らの努力に報いたいと思います.ありがとうございました.

我々のよく知らない地盤の力学現象はまだ数多くあるはずで,地震による地盤変状にも,未知なものがまだまだある,GEOASIAはその探索機にもなってほしいと願っています.「設計のためには,あえて難しい力学などは不要だ」,これが今なお地盤工学の世界を支配する一般認識です.しかし真実を知らずに設計などしてよいわけはない,なんとかこの悪しき「一般認識」を皆でして覆し,勇躍突き進んで行きたいものだと願っています.

会員諸氏の一層のご発展,ご活躍をお祈りし,ご挨拶といたします.

平成22年8月