令和3年度 会長あいさつ
コロナ禍がますます全国拡大し大都市で医療崩壊の危機も危ぶまれる中,マラソンの札幌でも100年来の猛暑が伝えられています.今年またジオアジア総会はリモートのオンライン開催になりましたが,会員の皆様には変わらずお元気にご活躍のことと,推察しております. 6月に「地質調査業協会中部支部」から,日々地質調査と土質試験に関わっている現役技術者に,「土質力学の復習に役立つ手短な書き物」を依頼されました.このご依頼には,私自身の自惚れが災いし簡単に引き受けてしまいましたが,実際に書いてみると今更ながら老齢の非力を思い知る結果になりました.書き物そのものは「手短でよい」おかげで救われましたが,この3年前まで,いつもこのメッセージで触れていた「ジオアジアの教科書」のことを,改めて考えるいい機会になりました.
土質力学は塑性学を「金属塑性」から教わりました.Mises 基準なくして土質力学はなかったでしょう.金属塑性は「塑性加工」に大発展を遂げましたが,土質力学では,金属にない土の二つの特性,「圧縮」と「誘導異方性」をまじめに考える中で,「弾塑性土質力学」に発展しました.どこにでもある言葉のように思われるかもしれませんが,「弾塑性土質力学」という言葉は,私自身は,今回初めて使うものです.
金属をはじめどんな材料も,熱変化を別にすれば,土木建築で出てくるくらいの力では,水も含めて,圧縮しません.土の圧縮は,「土」が土と水と空気の混合体である結果です.粘土でよく使われるコンシステンシーも水と土の混合体ならではのものです.砂ももちろん,乾いていればトントントンと軽く叩くだけで大圧縮します.一方の誘導異方性ですが,これも圧縮同様,ほかの材料では聞いたこともありません.どうしてか? 粘土にも誘導異方性は顕著にありますが,しかし砂が粒状体であることを思い浮かべると,すぐにも理解されます.金属の移動硬化がいかにも間に合わせ的であるのと比べると,粒状性を背景にした土の誘導異方性は,再液状化の評価にもはるかに説得的で,現象をよく説明します.
以上はすべて土骨格の構造概念に由来します.この概念は,練り返し粘土の弾塑性力学であるCam Clay model の限界を打ち破るための,私たちにとっては大変重要な発明でした.しかしそれ以前に,よく考えてみれば,金属と土は,もともとまるで違っていたのです.
こんなことを書き始めると終わりがないので,ジオアジア教科書全6部の,会長のではなく,浅岡個人の構想を以下に書きます.
ジオアジア 全6部
- 弾塑性土質力学 その1
土の圧縮のメカニズム e – log p’を超えて - 弾塑性土質力学 その2
土の一方の真実は異方性! 粘土の異方性,砂の液状化,再液状化 - 弾塑性土質力学 その3
不飽和土,土の混合体特性の極致 - 計算地盤力学 その1
連続体の運動方程式と有限変形解析,混相体の相互作用の計算 - 計算地盤力学 その2
固体と流体の接点をめぐる,計算地盤力学の最新事情 - 地盤工学とGEOASIA
地盤工学で計算は無用か?
GEOASIAプログラムの使い方と典型的な最新解析事例の解説
このようなものを分かり易く書くだけなら,1の概要なら10日も過ぎず書き上げた年寄りの私から言えば,担当執筆者は,五,六回の土曜と日曜を使うだけでもう十分なはずです.研究や日々の雑務をこなす妨げにもならないでしょう.上記の「構想」をきっかけに,もう一度議論が進むのを期待します.
七言絶句風の戯詩を一つ紹介して終わります.
詩書を読み尽くすこと,五,六担(400~500キログラム!)
老来 方(まさ)に,一青衫(科挙に合格,青い役人服)を得たり
佳人(美人)我に問うていわく,年多少(としはおいくつに)なるや
五十年前二十三
私は今年もう,五十年前二十四になりました.
(公財)地震予知総合研究振興会副首席主任研究員
名古屋大学名誉教授 浅岡 顕