平成25年度 会長あいさつ
今回のメッセージは,嬉しいニュースが続きます.GEOASIA研究会会員で名古屋大学地盤力学講座出身(15期生)の難波喬司氏は,昨年に,国交省九州地方整備局副局長から,同省大臣官房技術総括審議官として霞ヶ関に戻ってこられました.公平な技術評価を推進し,より優秀な技術を探索する難波喬司会員に,当研究会は今後とも強く応えてゆかねばなりません.
嬉しいニュースの2番目は,同じくGEOASIA研究会会員の田代むつみ氏(名古屋大学)が,「平成25年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞」を受賞したことです.受賞対象業績は「長期大沈下をする軟弱地盤の簡易判定と将来予測に関する研究」で,これは,平成23年度の地盤工学会研究奨励賞の業績を掲げての地盤工学会末岡徹会長による推薦が奏功したものです.地盤工学で業績をなす者は,経験主義を超えて実は科学者であることをあらためて知らしめたのだと,とても嬉しく思いました.これに関して一つだけエピソードを述べたいと思います.6月にさる試験盛土について将来予測の計算のコンテストのようなものがありました.田代会員は,いつものようにこの試験盛土のこれまでの施工過程を計算機の中で実現させながら,試験工事中に得られたすべての実測値が一貫して矛盾なく再現できるよう当該多層系地盤の初期条件と地盤物性値その他を逆解析的に定めて,将来予測をしました.結果は新しいマクロエレメント法の威力も借りて,見事に説得的なものでしたが,出席の一人のコンサルタントエンジニアから次のような一種「独り言」がありました.「自分もこれまでの観測ないし計測結果を忠実に再現できるよう,万全を期して準備の後,将来予測をすべき,と論文に書いたのだが,査読で『論理に飛躍がある』と言われた.なぜだかよく分からない」というものでした.逆解析による予測には落とし穴があって,土に無理に自白を迫ってはなりません.土は弾性体ではないのに弾性体と決め付けて,土に「お前の弾性係数はこれだろう」と無理に自白させても,将来予測に役に立つはずがありません.自白の無理強いではなくて,土自らが自ずと語り始めるような,素直な科学的なモデルと算法が,逆解析の前提として事前によく準備されていることが必要です.GEOASIAがもし地盤から最も信頼されているとすれば,理由は実はこの点にあります.
最近,名古屋港ポートアイランド護岸の耐震性照査に関する中部地方整備局からの発注業務に際し,特記仕様書の中に,地盤総合解析プログラムGEOASIAの使用を求める一文が入るなど,わが研究会に対する社会的な要請はますます高まってきています.その一方で若手技術者,GEOASIA Master の養成などは必ずしも順調とはいえません.GEOASIAの教科書の出版を来年度こそと準備中ですが,一言で表せば「GEOASIAの高度化(研究)」と「GEOASIAの普及(教育と実務)」の両立をめぐって研究会はまだまだ苦しんでいます.「粘土がわからなければ,砂も分からない」のと同じく,実際には「研究なくして普及はないし,普及なくして研究もない」というのが正しいのでしょう.会員諸氏の一層のご熱心な取り組みを期待しながら今年度のご挨拶といたします.
平成25年8月
(公財)地震予知総合研究振興会副首席主任研究員 名古屋大学名誉教授
一般社団法人GEOASIA研究会
会長 浅岡 顕