平成24年度 会長あいさつ

私(浅岡)は今,縁があって静岡県の「原子力学術会議 地震・火山対策分科会」の委員の仕事をしています.中部電力浜岡原子力発電所の対津波の防波壁の設計の外部評価委員会の責任者であった関係で,静岡県から委嘱されたものです.皆様ご存知のように今年3月末日,内閣府の「南海トラフの巨大地震モデル検討委員会」は,静岡県富士川河口断層から宮崎県日向灘南までの750kmにわたる広大な領域で最大M9.1の超巨大連動地震が起こるとする新しい想定のもと(これだともう「想定外」はないでしょう),太平洋岸で軒並み20m超の津波を「予測」しました.強震動についても同じで,中央防災会議で以前に震度6と予想された地域の多くが震度7に置き直されました.静岡県は,その最大の「影響」県の一つです.
ハードの対策など出来るはずもないこのようなとんでもない「想定」が,しかし力強い後ろ盾になって,静岡県では「100年に一度」の外力にはハードで耐える防災対策の推進が決まりました.太平洋岸の他府県も,「100か30か」の違いくらいはあっても,恐らく同じ方向です.再び土木の出番なのです.
私は数年前に,「阪神淡路の後に,急激に進んだ地震学の進歩に土木/地盤工学は追いついているのか?」と述べたことがあります.「地震学の進歩」はともかく,ふたたび「防災対策のこのような厳しい要請に土木/地盤工学は追いついているのか」が,今まさに問われています.「震度法」「安全率」「FL, PL」の世界からいち早く脱皮して,「被害内容の,克明な記述的想定」が可能な「あらゆる意味で連続した(三つのAllの)力学」に基づく設計が,今本当に求められているのです.
実は一昨日,地盤工学会の「構成式に関するワークショップ,第1回」(浅岡委員長・中井照夫座長)がありましたが,Bulletin第1号から5年以上を経ていながら,少し辛い思いで帰って来ました.「砂は,密度(間隙比)が違えば別の材料で,そのつど間隙比ごとにパラメータを変えるのは,誰でもやっていることで,当たり前」,「世の中,皆が皆そうしているのに,GEOASIAだけが,自分はそうでないというのは独りよがり、・・・」という主張がありました.しかしもう,砂(も粘土も)その力学はわかってきています.いよいよこれからは,複雑な地盤の挙動に対し,その場しのぎにならず,着実に研究を進めて理論を示してゆくことが大事であることを痛感いたしました.会員諸氏の一層の奮闘を期待しています.

平成24年8月


(公財)地震予知総合研究振興会副首席主任研究員 名古屋大学名誉教授
一般社団法人GEOASIA研究会
会長 浅岡 顕