一般社団法人 geoasia (ジオアジア) 研究所

令和4年度 会長あいさつ


一昨日,安倍元首相が暴漢に射殺された.悔しかっただろう.私たち国民も,同じように悔しい思いをし続けている.
15年が過ぎて,今号は第16号になる.安倍元首相の不幸を思って茫然としている時,この15年「会長メッセージ」で,浅岡が恩師の松尾稔先生のことを一度も書いたことのなかったことに気付いた.先生もまだ若くて悔しかった.
松尾先生は2015年に78歳で亡くなられた.先生の業績と人柄は,依頼されて2015年の地盤工学会誌「土と基礎」7月号に,1頁丁度だが,長文の浅岡追悼文を載せていただいている.正確な記述で,まだ8年しか経っていないから,今からでも,もしお読みいただけるなら誠に有り難い.しかしそこには,浅岡の本音が書けていない.
松尾先生は,京都大学村山朔郎先生の弟子で村山研なのだが,事情があって学位論文は計画研(長尾義三先生)で纏められ,すぐそのあと,京都大学学士山学会の「ブータン学術探検隊長」として,まるまる1年間大学を離れた.長尾研に戻られたのは,浅岡が長尾研4年生から大学院1年生に上がるときだった.1970年前後のことである.
赤池の情報量(AIC)最小基準は,最尤法の拡張として1973年国際会議で発表された.しかし浅岡がAICについて京都大学で赤池弘次先生の講義を直接聴いたのは,1975年のことである.x軸y軸の空間にデータが10個ある.9次式を当てはめれば全データを通過するが,誰もそんなことはしない.y = a0 + a1x か,せいぜい      y = a0 + a1x + a2x2 くらいしか当てはめない.それは何故なのか,AIC最小基準は所謂「ケチの原理,principle of parsimony」を正確に表したものである.松尾・浅岡はこの新しい情報量基準を用いて粘土地盤内の非排水せん断強度の確率分布のモデルを探索したことがあり,1977年の国際地盤工学会(東京会議)で発表した.しかし松尾も浅岡も,この研究には特段深い感懐はなかった.東京会議には別の論文も書いたが,それもどんな論文だったか,もう忘れて久しい.
しかし,Rosenblueth Method(1975) に巡り合った時は,浅岡は腰を抜かすほど驚いてしまった.
松尾先生の専門は,なんと言っても地盤工学における信頼性設計である.信頼性設計など,実は何も難しい話ではないが,計算が困難なのである.信頼性設計というのは,突き詰めていえば,Y = f(X) のXが確率変数の時の,Yの確率分布を求める問題と言っていい.普通にはf(X)をXの平均値の周りでテイラー展開して,Xの平均と分散からYの平均と分散を求めたりする(first order second moment 法).しかし例えば,φu = 0 円弧滑り解析を考えてみよう.Xが粘土の非排水せん断強度でYは安全率である.円弧滑り解析は,ご存じのように「最小安全率円」の探索が鍵で,これは塑性学で言う上界定理の適用に相当し,最小安全率円探索を欠いては円弧滑り解析は力学にならない.試行錯誤の計算ののち,ようやく一つのX = x から一つの安全率 Y = y が決まる.このようなときに,f(X)を解析的に式示したり,その1階,2階の導関数を求めたりすることは出来ない.モンテカルロシミュレーションと言っても,そんな多数の円弧滑り解析など全く現実的でない.このようなときに,連続確率変数Xの確率分布を,わずか2点での離散確率分布に置き換えて(Rosenblueth Method),わずか2回の円弧滑り解析から安全率 Y の確率分布を求めるのである.詳細は文献参照.精度は多点確率分布に置き換える等,工夫次第でいくらでも上がるが,その説明などここで必要はない.
それまでの「最小安全率円探索」を欠いた(今でもほとんどはそうと思うが)「信頼性解析」に忸怩たる思いでおられた松尾先生は,積年の恨みを晴らしたかのように明るい顔になり,大喜びされた.先生の理解の速さには驚いたが,先生は学問に妥協を許さない,勉強好きの学者だったことを思い出す.
中野教授は,教授昇進の時「浅岡先生は,実は粘土も触ったことのない先生です」と言ってしまって,周りをびっくりさせた.松尾先生も,「ノルウェイ(NGI)から届いた3軸試験機を組み立てたのは俺だ」と言いつつ,いつも故軽部先生のことをよく話ししていたなあ.今名城大学学術支援センター長の小高教授は,ドクターの時「砂地盤の浸透破壊実験を水道水でやると,気泡ばかりが出てきて困る」と心配していたが,水道水がビールに化けるならいい話じゃあないかと,飲めない小高君を前に浅岡だけ,毎晩ビールを飲んでいた.野田教授なども,助教授に上がる前だったか,教室会議で「浅岡先生の試験問題や採点なんかは,私は学生の時からずっとやっていました」とふと喋ってしまって,これにも往生したなあ.みな本当の話だから仕方なかったけれど,どれも松尾~浅岡の関係と変わるところがない.大学総長などに浅岡はなれるはずもなかったが,しかし師匠と弟子の関係はよく似てしまうものだと,懐かしい.
文献1: Emilio Rosenblueth:“Point estimates for probability moments”, Proc. Nat. Acad. Sci. USA Vo.72, No.10, pp. 3812-3814, October 1975.
文献2: Akira Asaoka and Minoru Matsuo: “A simplified procedure for probability based φu = 0 stability analysis”, Soils and Foundations Vol.23, No.1, pp. 8-18, March 1983.

(公財)地震予知総合研究振興会副首席主任研究員 名古屋大学名誉教授 浅岡 顕

会長あいさつ



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