平成26年度 会長あいさつ
今これを書く前に,3年前3.11大震災の年である2011年8月発行のBulletin No.5の会長メッセージを読み直していました.そこでは,この地震を機に国民の信頼が大きく揺らいでいる科学は何も地震学だけでない,地盤力学も実はそうではないかと自問しつつ,GEOASIA研究会の研究発展を期待しています.
地盤工学会(日下部治会長,当時)はあの震災のすぐあと,会長特別委員会を三つ立ち上げました.そのうちの一つが,「(地震時・地震後の)地盤変状メカニズム研究委員会」です.この委員会には,あたかも上記の会長メッセージに呼応したかのように,旧来の枠に囚われない地盤関連学術の飛躍的発展が求められました.委員長に浅岡というのは飾りですが,野田利弘幹事長以下,GEOASIA研究会の多くの会員がこの委員会に参加し,公的な地盤工学会の場で,産・官・学の若手研究者と共同研究を進め,「学術の飛躍的発展」につながる多くの研究成果を挙げました.委員会終了の報告は,今年5月に地盤工学会震災特別シンポジウムでなされています.今年度のGEOASIA研究会総会に先立つ『科研S』研究成果報告会でも,さらに掘り下げた成果報告がなされる予定です.
さてでは,GEOASIA研究会の会員による研究の,いったい何が「学術の飛躍的進展」につながる寄与をしたのでしょう.業績の一部しか紹介できず,しかも練られたものではありませんが,私見を述べてみます.
(1) すべての地盤の問題を「(増分形の)運動方程式の積分」に置き換えてしまったこと.これによって,「力の釣合い式」とか「準静的過程」を考えていては本来解の出ない問題を,正確に安定して解くことができるようになっています.(「支持力問題」は,本来が運動方程式によって解くべき動的問題で,極限「釣合い」問題ではないと言い切ったのは,わが研究会会員で,浅岡はこれを受けて,「地盤は地響きを立てて壊れるのだ」と言いました.必ずしも地震の問題のために運動方程式に切り替えていたのではない点が重要です.)出力される時間も初めてRealityを獲得しました.地震前,地震中,地震後を連続して取り扱うことのほか,リーデルせん断帯やフラワー構造のシミュレーションなど,「地震を生み出す」試みにも大きく寄与しています.
(2) 飽和土の力学から3相系の不飽和土の力学への大進展.初期値・境界値問題の中で,地震後河川堤防の中に地下水が吸い上げられていくのを見たあと,道路盛土で同様な現象が実際にあったのだと写真を見せられ,大変驚きました.不飽和土は「ごく表層の土」だけだから大きな問題ではないというのは全く正しくありません.岩手宮城大地震のときの深層地すべりはすべて不飽和土でした.またプレート間地震のせん断帯で採取された「土」は,すべて不飽和だったとも言われています.
(3) 弾塑性構成式の新展開.カムクレイモデルはロスコー面と弾性壁(亜弾性型の非線形等方フック則)から組み立てられています.ロスコー面が純粋に実験事実だけから出てきているのに比べ,一方の弾性壁は等方フック則の呪縛に囚われて出てきた面が強く,つまり実験結果をうまく説明できないまま導入されていました.野田利弘教授による「超弾性モデル」への切り替えは,等体積で再負荷されるとき 平面で有効応力経路が斜め外側に上がり,せん断剛性が増加する挙動を,パラメータの数を増やさないで素直に説明し,これにより砂のサイクリックモビリテイも極めてよく再現できるようになってきました.驚くべき成果で,昨年初めてこれを見た私は息を飲みましたが,もちろん弾塑性構成式の改善は,なにも弾性的性質の改善にだけ止まっているのではありません.(山田正太郎准教授らの研究を見て,随分昔の剛塑性の計算を思い出しました.砂の排水支持力の計算で,問題はミーゼス強度の地盤内での不均質な分布状態の探索だと述べて,「非関連流れ則」とは言わなかったのです.すなわち,砂地盤のある点の平均有効応力の大きさは,計算結果としてしか現れませんが,なんと計算されてきたその値にドンピシャリ比例するミーゼス強度を,砂はその場所で初めから持っていた,というストーリーです.)構成式研究は異方性も含めて大きな飛躍を生み出しつつあります.実験と理論の融合という点が大きいのですが,出てきているモデルは,あらたにDrucker-Pragerモデルを取り込みつつも,SYS Cam-Clayモデルや,上負荷面概念を内包した上での発展になっているのは,おおいに幸いです.
来年のメッセージでは,GEOASIA研究会の技術普及と会員教習についても触れることが出来るよう,この一年努力しようと思っています.会員諸氏の一層のご協力をお願いいたします.
平成26年8月
(公財)地震予知総合研究振興会副首席主任研究員 名古屋大学名誉教授
一般社団法人GEOASIA研究会
会長 浅岡 顕